◆資料の概要
- 一九九三年、湖北省荊門市郭店一号墓から竹簡八〇四枚(内、文字が記されていたもの七三〇枚)が出土。
- 墓葬年代は、墓葬形態や出土器物から推測して、「戦国中期偏晩」、紀元前四世紀中葉から三世紀の初め(下限は、当地[旧郢の楚国貴族の陵墓区内]が秦の白起によって抜かれた前二七八年)。
- 墓主は、墓葬形態や副葬品から判断して、楚の上士。特に、出土した漆耳杯に「東宮之杯」の文字が認められることから、楚王の太子横(後の頃襄王)の師と推定される。
- 総文字数は、約一万二千字。異なり字数は、約千三百字。内、約半数は『説文解字』に見えない字。
- 竹簡の形態は、長さ一五㎝から三二、四㎝まで、幅は〇、四五㎝から〇、六五㎝まで。概ね三種類に区分される。両端は、平頭と梯形の二種類。
- 文字は「典型的楚国文字」。既に公表されている『包山楚簡文字編』(一九九三年)、『曾侯乙墓竹簡文字編』(一九九七年)とともに、戦国時代の文字状況を知るための貴重な資料。
- 内容は、道家系文献(《老子》甲乙丙、《太一生水》)と儒家系文献。
◆儒家系文献の内訳
- 儒家系文献の内訳は、次の通り(『五行』は第一簡冒頭に「五行」と篇題が記されている。他は全て『郭店楚墓竹簡』の編者が内容から推測して付けた仮称である)。
- 《緇衣》(『礼記』緇衣篇とほぼ重複、若干の異同あり)
- 《魯穆公問子思》(魯の穆公と子思の問答、主題は「忠臣」)
- 《窮達以時》(冒頭に「天人の分」に関する思考あり)
- 《五行》(馬王堆漢墓帛書《五行》とほぼ重複)
- 《唐虞之道》(堯舜の禅譲を賛美し、舜が仁義孝悌の徳を備えていたことを論述)
- 《忠信之道》(主題は忠と信)
- 《成之聞之》
- 《尊徳義》(『礼記』曲礼上の「礼不下庶人、刑不上大夫」と同様の思考あり)
- 《性自命出》
- 《六徳》(夫婦・父子・君臣の関係、詩・書・礼・楽・易・春秋の序列)
- 《語叢》一~四(『論語』中の孔子言と類似する部分あり)
- 総じて、戦国前期から中期に至る儒家思想の実態を示す資料と推測される。
各竹簡の形制については郭店楚簡形制一覧参照
なお、郭店一号楚墓の造営年代については、こちらを参照。
郭店楚墓竹簡形制一覧
№ | 名称 | 枚数 | 簡長(㎝) | 簡端 | 編綫 | 編距(㎝) | 字体 | 同筆 | |
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1.1 | 老子 甲 | 39 | 32.3(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 13 | 第一種 | 第一類 | |
1.2 | 老子 乙 | 18 | 30.6(Ⅰ) | 平斉 | 両道 | 13 | 第一種 | 第一類 | ■ |
1.3 | 老子 丙 | 14 | 26.5(Ⅱ) | 平斉 | 両道 | 10.8 | 第一種 | 第一類 | ■ |
2 | 太一生水 | 14 | 26.5(Ⅱ) | 平斉 | 両道 | 10.8 | 第一種 | 第一類 | ■ |
3 | 緇衣 | 47 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 12.8~13 | 第二種 | 第一類 | ★ |
4 | 魯穆公問子思 | 8 | 26.4(Ⅱ) | 梯形 | 両道 | 9.6 | 第二種 | 第一類 | ◆ |
5 | 窮達以時 | 15 | 26.4(Ⅱ) | 梯形 | 両道 | 9.4~9.6 | 第二種 | 第一類 | ◆ |
6 | 五行 | 50 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 12.9~13 | 第二種 | 第一類 | ★ |
7 | 唐虞之道 | 29 | 28.1~ 28.3(Ⅱ) | 平斉 | 両道 | 14.3 | 第三種 | 第四類 | |
8 | 忠信之道 | 9 | 28.2~ 28.3(Ⅱ) | 平斉 | 両道 | 13.5 | 第三種 | 第四類 | |
9 | 成之聞之 | 40 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 17.5 | 第四種 | 第二類 | ▲ |
10 | 尊徳義 | 39 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 17.5 | 第四種 | 第二類 | ▲ |
11 | 性自命出 | 67 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 17.5 | 第四種 | 第二類 | ▲ |
12 | 六徳 | 49 | 32.5(Ⅰ) | 梯形 | 両道 | 17.5 | 第四種 | 第二類 | ▲ |
13 | 語叢 一 | 112 | 17.1~17.4(Ⅲ) | 平斉 | 三道 | 第五種 | 第三類 | ● | |
14 | 語叢 二 | 54 | 15.2~15.2(Ⅲ) | 平斉 | 三道 | 第五種 | 第三類 | ● | |
15 | 語叢 三 | 72 | 17.6~17.7(Ⅲ) | 平斉 | 三道 | 64号以後上下両欄 | 第五種 | 第三類 | ● |
16 | 語叢 四 | 27 | 15.1~15.2(Ⅲ) | 平斉 | 両道 | 6~6.1 | 第一種 | 第一類 |
○「簡長」欄(Ⅰ)~(Ⅲ)は簡長の分類を示す。Ⅰ:30.6~32.5 、 Ⅱ:26.5~28.3Ⅲ:15.1~17.7
○「字体」欄 第一種~五種は、李零「郭店楚簡校読記」(『道家文化研究 第十七輯 郭店 楚簡専号』生活・読書・新知三聯書店、一九九九年八月)「附録:郭店楚簡的字体和形制」の分類による。第一類~第四類は、周鳳五「郭店竹簡的形式特徴及其分類意義」(『郭店楚簡国際学術研討会論文集』湖北人民出版社、二〇〇〇年五月)の分類による。
○「同筆」欄 ■◆★などの記号は、それぞれ同筆であることを示す。