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書誌情報用語解説

詳しくは、『竹簡学入門――楚簡冊を中心として』(陳偉著、湯浅邦弘監訳、草野友子・曹方向訳、東方書店、2016年12月)参照。

(1)竹(ちっ)簡(かん)……紙が発明される前の書写素材で、竹の札を「竹簡」、木の札を「木簡」と言う。竹簡の上端から下端までの長さを「簡長」と言い、竹簡の幅を「簡寛」という。簡長、簡寛はセンチメートル単位で示す。

(2)簡(かん)牘(とく)……一行の文字が書かれている竹片・木片を「簡」あるいは「札」と呼び、二行以上の文字を書くことができるものを「牘」と呼ぶ。一般的には「竹簡」「木牘」の意味で簡牘と呼ばれるが、包山楚墓からは竹牘も発見されている。「簡」「牘」「簡牘」は時折、ほぼ同じ意味で使用される。(たとえば湖南省の里耶地方で出土した秦代の木牘は「里耶秦簡」と呼ばれている。)

(3)簡(かん)帛(ぱく)……簡牘と帛書の総称。帛書とは、文字が書かれた絹の布。これまで発見されたものに、長沙子弾庫戦国帛書、馬王堆漢墓帛書などがある。

(4)竹(ちく)黄(おう)・竹(ちく)青(せい)……竹片の内側部分を竹黄、外皮部分を竹青と言う。一般的に、竹黄の一面に文字が抄写され、それを表面〔中国語では「正面」〕と言う。竹青の一面は、竹簡の背面に当たり、「簡背」と略称する。

(5)完(かん)簡(かん)・整(せい)簡(かん)・完(かん)整(せい)簡(かん)……欠損がなく完全な形を保っている竹簡。いくつかの残簡を接合することで、完全に復原できた簡を含む。

(6)簡(かん)端(たん)(簡(かん)首(しゅ)・簡(かん)尾(び))……簡牘の上端(「簡首」とも呼ばれる)と下端(「簡尾」とも呼ばれる)を指す。平(へい)斉(せい)、梯(てい)形(けい)、孤(こ)形(けい)(円(えん)端(たん))の三種に分類できる。

  1. 平斉……簡の両端が角をもった方形状になっているもの。
  2. 梯形……簡の両端が角を落とした台形状になっているもの。
  3. 孤形(円端)……簡の両端が丸い円形状になっているもの。

(7)契(けい)口(こう)……竹簡を固定するための切れ込み。竹簡を綴じる際、この切れ込みに糸や紐を引っかけていたと考えられる。竹簡の右側面に位置するものを右契口、左側面に位置するものを左契口という。右契口のものが圧倒的に多い。一般的に、二つの契口は上・下で区別し(上契口・下契口)、三つ以上のものは数字番号(第一契口・第二契口・第三契口)とする。

(8)劃(かっ)痕(こん)……竹簡の背面に斜めに刻まれたひっかき傷状の線。「簡背劃痕」とも言う。一般的に、数枚の竹簡にわたってつけられており、竹簡の誤排列を防ぐために加えられたものであると考えられる。そのため、編聯する際の有力な手がかりとなる。

(9)墨(ぼく)線(せん)・劃(かく)線(せん)……竹簡の背面に斜めに墨で引かれた線。

(10)編(へん)縄(じょう)・編(へん)綫(せん)(編(へん)線(せん))……竹簡を綴じる紐。厳密に言えば、粗い麻糸で作られた綴じ紐を編縄、は細い絹糸で作られた綴じ紐を編綫と言う。一般的に、両(りょう)道(どう)と三(さん)道(どう)とがある。また、綴じ紐の間の距離を「編(へん)距(きょ)」と言う。

  1. 両道……竹簡を上・下二本の紐で綴じたもの。両道編ともいう。
  2. 三道……竹簡を上・中・下三本の紐で綴じたもの。三道編ともいう。

(11)編(へん)綴(てつ)……綴じ紐を用いて、いくつかの竹簡を並べて綴じること。これまで出土した楚簡には編綴された状態が残っている例はなく、漢簡によく見られる。

(12)編(へん)痕(こん)……竹簡に残った綴じ紐のあと。

(13)編(へん)連(れん)(編(へん)聯(れん))……竹簡を排列すること。竹簡発見当時、編綴のための綴じ紐が朽ちて、排列がバラバラになっていることが多い。その際、竹簡の整理者(原釈文担当者など)は、竹簡の形状や筆写された文字、内容から判断して排列する。

(14)残(ざん)簡(かん)……欠損がある竹簡。発掘時にすでに破損していたものや、盗掘されて流出した時に破損したものなどがある。

(15)叉(しゃ)口(こう)・茬(し)口(こう)……簡牘の折れたところ、断裂面を指す。

(16)綴(てつ(てい))合(ごう)……残った簡牘同士を接合して復原すること。

(17)遥(よう)綴(てつ)……残簡の折れたところが直接接合しないものの、文脈によって位置が確定できるもの。

(18)冊(さつ)(簡(かん)冊(さつ))……竹簡を紐で綴じたもの。狭義としては、書籍類の冊を「竹書」という。竹簡を綴じ直す場合、本来の排列を間違えることを「錯(さっ)簡(かん)」と言う。欠落している竹簡を「脱簡」と言う。

(19)首(しゅ)簡(かん)・末(まっ)簡(かん)(尾(び)簡(かん))……巻あるいは篇としての簡冊について、冒頭の一枚を首簡、最後の一枚を末簡(尾簡)と言う。

(20)簡(かん)号(ごう)(編(へん)号(ごう))……次の二つの意味がある。

  1. 釈文を作成する際に附された竹簡の番号。これと区別して、発掘する際に加えられた番号を「出土編号」という。二回以上の整理を経て、異なる番号が附されている竹簡資料もある。
  2. 竹簡の排列を示すために、もともと竹簡に記されていた漢数字。

(21)天(てん)頭(とう)・地(ち)脚(きゃく)……竹簡の上端・下端に残っている書写されていない空白を指す。

(22)満(まん)写(しゃ)簡(かん)・通(つう)欄(らん)……天頭と地脚の有無にかかわらず、上端もしくは上端に近い部分から、下端もしくは下端に近い部分まで文字が筆写されている簡牘。

(23)分(ぶん)欄(らん)・分(ぶん)段(だん)書(しょ)写(しゃ)……一本の簡牘に、上下あるいは二段以上にわたって段組で筆写したもの。

(24)留(りゅう)白(はく)簡(かん)……簡牘の上端部と下端部、もしくはその一方に文字が筆写されていない一定の空白をもつ簡。一方、全く文字が書かれていない竹簡を「空白簡」「白簡」と言う。篇や章の末尾にあたる簡については、篇末または章末の文字の後を空白にする例が多く見られる。

(25)句(く)読(とう)符(ふ)……句読点や章・篇の末尾を示す。代表的なものは、次の二つ。

  1. 点(てん)状(じょう)符(ふ)号(ごう)……点の形状の符号。
  2. 塊(かい)状(じょう)符(ふ)号(ごう)……方形状の墨点、墨(ぼく)釘(てい)とも言う。

(26)重(じゅう)文(ぶん)符(ふ)号(ごう)……同一字を繰り返して読むことを示す符号。踊り字。多くの場合「〓」で表示され、一字を繰り返すもの、二字を繰り返すもの、多字を繰り返すものがある。

(27)合(ごう)文(ぶん)符(ふ)号(ごう)……合文を示す符号。合文とは、表記法の一形式として、あるいは書記労力の軽減のために、異なる二字(例外的に三字の場合もある)の漢字を一字に合して表記したもの。その結果、一字一音節という漢字の特性に反し、一字が二つの音節をもつという特殊な状況を示す。合文で表記される二字には、二字をそのまま合した例、点画の一部を共有する例、偏旁を共有する例などがある。
合文は多くの場合、重文と同じ「〓」で表示され、合文か重文かは文脈によって判別する。また、一つの短画のみを用いて合文符号とする例もある。

(28)墨(ぼっ)鉤(こう)……かぎ状の符号(鉤状符号)。句読点や章・篇の末尾を示す。

(29)墨(ぼく)節(せつ)……横に引かれた墨線。篇・章の末尾を示す。篇末符号の場合は、原則として墨釘(または墨鉤・墨節)以下が文字のない留白となる。

(30)盗(とう)掘(くつ)簡(かん)・流(りゅう)散(さん)簡(かん)・非(ひ)発(はっ)掘(くつ)簡(かん)……「発掘簡」(考古学者や作業員らによって遺跡や古墓から掘り出された簡牘資料)に対し、遺跡や古墓から私的に掘り出された簡牘を指す。法律に反した発掘であることから「盗掘」と言い、考古学の発掘ではないために「盗掘簡」「非発掘簡」という。また、一般的に骨董市場に流出して散逸するため、「流散簡」ともいう。これらの簡牘資料は、博物館や大学などが入手、保存、整理を行っている。一般的に、入手した博物館や大学の名前が附される。

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