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戦国楚簡と先秦思想史

科学研究費補助金・基盤研究B「戦国楚簡と先秦思想史に関する総合的研究」

(研究代表者:湯浅邦弘、平成21年度~平成25年度)

2014.8研究会の活動が「科研費NEWS」に取り上げられました。

■研究組織

  • 研究代表者
    湯浅邦弘(大阪大学大学院文学研究科教授)
  • 研究分担者
    竹田健二(島根大学教育学部教授)
  • 連携研究者
    福田哲之(島根大学教育学部教授)

■要旨

本研究は、現在、中国古代思想史研究の分野で世界的に注目を集めている戦国楚簡の解読を進め、中国古代思想史、特に先秦思想史の形成と展開を明らかにすることを目的とする。具体的には、現在順次刊行が進められている『上海博物館蔵戦国楚竹書』(馬承源主編、上海古籍出版社)に基づいて、それぞれの新出土文献を、思想史・文字学の専門家からなる共同研究によって解読し、また、中国・台湾などで活発な活動を続けている出土文献関係の学会・研究会と学術交流を進め、さらには、湖北省荊門市および上海博物館などにおいて出土文献の実見調査を行って、上記の解読作業を補完する。最終的には、これらの研究成果を踏まえて、従来の通説に大幅な修正を加えた、新しい中国古代思想史の記述を目指す。

■研究の学術的背景、経緯

新出土文献が中国古代思想史の研究分野に大きな影響を与えるようになったのは、1970年代以降であろう。例えば、銀雀山漢墓竹簡、馬王堆漢墓帛書、睡虎地秦墓竹簡などが、兵学・道家・法家などの思想史研究に重要な手がかりを与えた。

ただ、それらにも増して、思想史研究に劇的な事態をもたらしているのが、1990年代に入って発見された郭店楚墓竹簡(郭店楚簡)、および上海博物館蔵戦国楚竹書(上博楚簡)である。郭店楚簡は、大量の儒家系古逸文献および『老子』の三種写本などを含み、また、上博楚簡も、これまで知られることのなかった、およそ100 種近くの古代文献を含むものであった。戦国時代の楚文字で竹簡に筆写されたこれらの出土文献は、ただちに世界的な注目を集めた。中国・台湾・アメリカなどで次々に国際会議が開催されるとともに、インターネット上にほぼ毎日新しい論文が掲載されるようになった。中国古代思想史研究に全く新たな局面が訪れたと言ってよい。

そこで、申請者は、1998年の郭店楚簡の公開を受けて、中国思想史と中国古文字学との専門家からなる「戦国楚簡研究会」を組織し、ただちに出土文献の解読に着手した。平成11年には、研究会メンバーの竹田健二が代表者となって、基盤研究(B)「戦国楚系文字資料の研究」を申請し、採択された。平成12年度~15年度にわたる共同研究では、精力的に国内会合を重ねて郭店楚簡のほぼ全文献の解読に成功した。

続いて、2001年から公開が始まった上博楚簡をも研究対象として、湯浅が代表者となり、基盤研究(B)「戦国楚簡の総合的研究」を立案し、平成17年度~20年度にわたる共同研究が行われた。この研究の成果としては、大きく二つの点を特筆することができる。

第一は、研究成果の刊行である。4年間の研究期間中に代表者・分担者が刊行した著書は、実に7点にものぼる。まず、『古代思想史と郭店楚簡』(浅野裕一編、汲古書院、2005年)は、郭店楚簡の各文献を取り上げ、個々の読解の成果を提供するとともに、それによって古代思想史研究がどのような変更を迫られるのか記述した。また、上博楚簡については、次の3点を相次いで刊行した。

  • 『竹簡が語る古代中国思想─上博楚簡研究─』(浅野裕一編、汲古書院、2005年)
  • 『上博楚簡研究』(湯浅邦弘編、汲古書院、2007年)
  • 『竹簡が語る古代中国思想(二)─上博楚簡研究─』(浅野裕一編、汲古書院、2008年)

さらに、個別の専著として、中国語による研究書の刊行も次のように行った。

  • 福田哲之『中国出土古文献与戦国文字之研究』(台湾・万巻楼、2005年)
  • 湯浅邦弘『戦国楚簡与秦簡之思想史研究』(台湾・万巻楼、2006年)
  • 浅野裕一『戦国楚簡与先秦思想』(台湾・万巻楼、2008年)

これらも、この共同研究の成果が基になって、台湾での刊行に至ったものであり、それぞれ10本程度の論考を収録している。

これら7点の著書に収録された論考だけでも、計82点となり、その他の研究誌などに発表した論考も加えると総点数は約100点という驚異的な数になる。この共同研究がいかに生産性の高い研究活動を展開したかが分かるであろう。

第二は、現地調査と海外学術交流である。この共同研究では、平成17年に、郭店楚簡を収蔵する湖北省荊門市博物館を訪問し、竹簡の現物を実見した。また、以後も、湖北省・湖南省・陝西省・山東省と、簡帛資料の出土地を訪れて、資料の現物を実見するとともに、現地研究者との学術交流に努めた。さらに、国際学会・シンポジウムにも精力的に参加した。特に、平成18年に、湖北省の武漢大学で開催された国際学会には、メンバーほぼ全員が招待され、それぞれ最新の研究成果を発表した。4年の期間中、国際学会での発表は、招待講演も含めて、計20回にのぼる。

こうして、共同研究は、きわめて順調に進んできたが、ここに思わぬ事態が発生した。それは、当初六分冊で完結すると発表されていた『上海博物館蔵戦国楚竹書』が、さらに三分冊を加えて計九冊となり、その上さらに、残簡のみを集めた別冊、および楚文字で記された字書が別に刊行されることになったのである。これらの情報は、平成19年度に上海博物館を訪問した際に得られたものである。

■研究期間内の研究目標

そこで、本研究では、これまでの実績を充分に生かしながら、これら三分冊と別冊に収録される出土文献、および楚系文字の字書に対応していきたい。

具体的には、これまで刊行の情報がありながらまだ公開されていない文献、特に孔子の弟子に関わる文献(『顔回』『子路』といった仮称が伝えられている)、『論語』や『礼記』の形成過程に関わる文献、楚の現地性の文献、道家、兵家、墨家に関わる文献などを総合的に解析したい。そして、これまでの通説を修正した先秦思想史を新たに記述したい。

申請した研究期間(平成21年度~25年度)は、ちょうど残りの三分冊と別冊、および字書が刊行される時期に当たっている。一分冊が刊行されると、そこに収録された複数の出土文献について100本単位で論考が発表されるというのが、現在の世界の趨勢である。この情勢に取り残されることのないよう、本研究を推進していきたい。

■学術的特色・独創的な点、および予想される結果と意義

本研究の特色の第一は、中国思想史と古文字学の専門家が協力して新出土文献の読解を進め、従来の通説に修正を迫る、という革新性にある。第二は、その即応性である。出土文献の公開を受けて、ただちに文献の解読を進め、その成果を、半年以内に研究論文として発表できるというのは、日本では、申請者のグループをおいて他にない。特に、『上海博物館蔵戦国楚竹書』第四分冊以降は、その傾向が顕著である。

独創的な点は、何より、出土文献の積極的な活用である。これまで全く知られていなかった古逸文献を読解して思想史の空白を埋め、また、『論語』『礼記』『周易』『老子』などの伝世文献と密接な関わりのある出土文献を読解して、伝世文献の成立や意義を再検討する。これらは、一昔前の思想史研究には全く見られなかった新たな手法であり、申請者の研究グループによって確立されつつあると言って良い。

本研究が採択され、順調に進めば、次のような重要な成果をあげることができる。第一は、郭店楚簡、上博楚簡の全容解明である。『上海博物館蔵戦国楚竹書』の全冊と別冊、および字書が出揃うことによって、ようやく戦国楚簡の全容が明らかにされよう。約100種にものぼる戦国楚簡が思想史研究にどのような影響を与えるのかが解明される。第二は、未釈箇所の確定である。これまで、郭店楚簡、上博楚簡とも、残欠により、釈文が未定のままとなっている箇所があった。だが、残簡を集めた別冊が公開されることにより、その未定箇所が明らかになる可能性がある。竹簡の連接についても再考が進み、場合によっては、当該箇所の解釈そのものが修正されることもあろう。そして第三は、思想史の新たな記述である。先秦思想史の研究が一つのピークを迎えたのは1960年代であるが、その後、1970年代の新出土資料、そして1990年代の戦国楚簡の発見を受けて、思想史そのものが新たに記述される。これは画期的な出来事である。

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