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中国新出土文献の思想史的研究

日本学術振興会科学研究費基盤研究B「中国新出土文献の思想史的研究」

(研究代表者:湯浅邦弘、平成26年度~平成30年度)

■研究組織

  • 研究代表者
     湯浅邦弘(大阪大学大学院文学研究科教授)
  • 研究分担者
     竹田健二(島根大学教育学部教授)
     中村(金城)未来(大阪大学大学院文学研究科助教)
     清水洋子(福山大学人間文化学部講師)
  • 連携研究者
     福田哲之(島根大学教育学部教授)

■要旨

本研究は、現在、中国思想史研究の分野で世界的に注目を集めている新出土文献の解読を進め、中国古代思想史、特に先秦から漢代思想の形成と展開を明らかにすることを目的とする。具体的には、現在順次刊行が進められている『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』『岳麓書院蔵秦簡』『北京大学蔵西漢竹書』等に基づいて、それぞれの新出土文献を、思想史・文字学の専門家からなる共同研究によって解読し、また、中国・台湾などで活発な活動を続けている出土文献関係の学会・研究会と学術交流を進め、さらには、上海博物館・北京大学・岳麓書院などにおいて出土文献の実見調査を行って、上記の解読作業を補完する。最終的には、これらの新出土文献の研究を通じて得られた新知見をもとに、新たな中国古代思想史の記述を目指したい。

■研究の学術的背景、経緯

新出土文献が中国古代思想史の研究分野に大きな影響を与えるようになったのは、1970年代以降であろう。例えば、銀雀山漢墓竹簡、馬王堆漢墓帛書、睡虎地秦墓竹簡などが、兵学・道家・法家などの思想史研究に重要な手がかりを与えた。

ただ、それらにも増して、思想史研究に劇的な事態をもたらしたのが、1990年代に入って発見された郭店楚墓竹簡(郭店楚簡)、および上海博物館蔵戦国楚竹書(上博楚簡)である。そこで、申請者(湯浅)は、1998年の郭店楚簡の公開を受けて、中国思想史と中国古文字学との専門家からなる「戦国楚簡研究会」を組織し、ただちに出土文献の解読に着手した。平成12年度~15年度には、本研究分担者の竹田健二が代表者となって、基盤研究(B)「戦国楚系文字資料の研究」を推進し、精力的に国内会合を重ねて郭店楚簡のほぼ全文献の解読に成功した。

続いて、2001年から公開が始まった上博楚簡をも研究対象として、湯浅が代表者となり、基盤研究(B)「戦国楚簡の総合的研究」(平成17年度~20年度)を進め、上博楚簡第八分冊までの読解を完了した。さらに、この研究を拡大発展させることを目的に、平成21年度~25年度にわたる基盤研究(B)「戦国楚簡と先秦思想史に関する総合的研究」を推進した。その研究の成果としては、二つの点を特筆することができる。

第一は、研究成果の着実な刊行である。5年間の研究期間中に、代表者の湯浅は、その成果を中国語の学術書『中国出土文献研究』(台湾・花木蘭文化出版社、2012年9月)として刊行し、連携研究者の福田哲之も、『戦国秦漢簡牘叢考』(台湾・花木蘭文化出版社、2013年9月)を刊行した。ともに、上博楚簡・清華簡などを中心とする出土文献研究の成果を公開するものである。また湯浅は、こうした研究成果の一端を、若手研究者や一般の読者に向けて発信すべく、『諸子百家』(中公新書、2009年)、『概説中国思想史』(ミネルヴァ書房、2010年)、『論語』(中公新書、2012年)などとして刊行した。

さらに、研究メンバーの学術誌における特集として、「中国出土文献研究2010」(『中国研究集刊』別冊、第52号)、「清華簡特集」(『中国研究集刊』第53号、2011年)、「中国新出簡牘学術調査報告─上海・武漢・長沙─」(『中国研究集刊』第55号、2012年)、「中国出土文献研究」(『中国研究集刊』第56号、2013年)などがある。

この共同研究は、当初、上博楚簡を主な研究対象とするものであったが、2010年から公開が始まった『清華大学蔵戦国竹簡』をも急遽対象に加え、戦国簡の解読による先秦思想史の再検討を精力的に行い、その成果を上記のような刊行物として次々に公開していったのである。
第二は、現地調査と海外学術交流である。この共同研究では、竹簡を所蔵する研究機関に赴き、竹簡の現物を実見することに努めた。2009年には、外国人研究者のグループとして初めて清華大学蔵戦国竹簡を実見し、翌2010年には、北京大学を訪れ、北京大学蔵西漢竹書を実見するとともに、現地研究者との学術交流を進めた。さらに、長らく非公開となっていた上博楚簡についても、2011年に初めて実見を許され、以後毎年夏に、上海博物館での調査を継続している。
また、国際学会・シンポジウムにも精力的に参加した。近年では、2012年5月、湯浅・福田・竹田が第四回日中学者中国古代史論壇(日本教育会館)に出席して研究発表を行い、2013年6月には、湯浅・竹田が台湾大学で開催された「先秦兩漢出土文獻與學術新視野國際研討會」に出席して研究成果を披露している。

こうして、共同研究は、きわめて順調に進んできたが、ここにさらなる事態の展開があった。第一は、『上海博物館蔵戦国楚竹書』の別巻の刊行である。同書は現在第九分冊まで刊行されているが、さらに残簡のみを集めた別冊、および楚文字で記された字書(『字析』と仮称されている)が別に刊行されることになった。第二は、岳麓書院(湖南省長沙)の入手した岳麓秦簡、および北京大学蔵の秦簡・漢簡(北大簡)の公開である。思想史研究に衝撃を与える新たな研究対象が出現したのである。これらに対応できるような新たな研究組織を整える必要が生じた。

■研究期間内の研究目標

そこで、本研究では、これまでの実績を充分に生かしながらも、こうした事態に対応すべく、戦国簡・秦簡・漢簡を対象とする新たな共同研究班を組織し、その読解を通して、先秦から漢代に至る中国古代思想史の研究を推進していくこととしたい。戦国簡・秦簡・漢簡の三つを対象とするのは、それらの資料が相互に密接な関係を有していると考えられるからである。従来の思想史研究では、資料的な制約もあって、先秦と秦漢以降とを分断する傾向にあったが、これらの新出土文献によって、先秦から秦漢に至る思想史を連続的に捉えることが可能になると考える。

具体的には、まず上博楚簡の残簡や『字析』を検討し、これまで蓄積してきた上博楚簡の研究成果と突き合わせ、上博楚簡研究の総まとめを行うとともに、戦国簡に記された古文字がその後、秦簡・漢簡でどのように変遷しているのかを考察したい。

また、申請した研究期間中(平成26年度~30年度)には、『清華大学蔵戦国竹簡』、『岳麓書院蔵秦簡』、『北京大学蔵西漢竹書』の分冊が年一冊のペースで続々と刊行される予定である。特に、戦国簡には、儒家思想や経書の形成について大きな手がかりがあり、秦簡では術数に関する資料、漢簡では『老子』の形成と伝播に関する資料が最も注目される。一分冊が刊行されると、ただちに多くの論考がインターネット上で発表されるというのが、現在の世界の趨勢である。この情勢に取り残されることのないよう本研究を精力的に推進し、最終的には、これらの新出土文献の研究を通じて得られた新知見をもとに、新たな中国古代思想史の記述を目指したい。

■学術的特色・独創的な点、および予想される結果と意義

本研究の特色の第一は、中国思想史と古文字学の専門家が協力して新出土文献の読解を進め、従来の通説に修正を迫る、という革新性にある。第二は、その即応性である。出土文献の公開を受けて、ただちに文献の解読を進め、所蔵機関に赴いて実見調査を進め、その成果を研究論文として発表するとともに、研究会のHPにも情報を公開する。

独創的な点は、何より、出土文献の積極的な活用である。これまで全く知られていなかった古逸文献を読解して思想史の空白を埋め、また、『論語』『礼記』『周易』『老子』などの伝世文献と密接な関わりのある出土文献を読解して、伝世文献と突き合わせ、伝世文献の成立や意義を再検討する。これらは、一昔前の思想史研究には全く見られなかった新たな手法であり、申請者の研究グループによって確立されたものと言って良い。

本研究が順調に進めば、次のような重要な成果をあげることができる。第一は、上博楚簡の全容解明である。『上海博物館蔵戦国楚竹書』別冊、および『字析』が出揃うことによって、ようやく上博楚簡の全容が明らかにされよう。多種多様な古文献が思想史研究にどのような影響を与えるのかが解明される。第二は、未釈箇所の確定である。これまで、竹簡残欠により、釈文が未定のままとなっている箇所があった。だが、残簡を集めた別冊や『字析』が公開されることにより、その未定箇所が明らかになる可能性がある。そして第三は、思想史の新たな記述である。戦国簡・秦簡・漢簡から得られた新知見により、古代思想史そのものが新たに記述されるという大きな意義がある。

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