二、北京大学訪問
その研究会のはじめての仕事となったのが、北京大学の訪問である。二〇〇九年に北京大学が前漢時代の大量の竹簡を入手したとの情報を得た我々は、清華大学出身の研究者刁小龍氏(人民大学)の仲介により、二〇一〇年七月中旬、北京大学に面会を申し入れ、快諾を得た。
渡航に先立ち、研究会メンバーの内、関西在住の湯浅邦弘、福田一也、草野友子、金城未来の四名は、大阪大学で北京大学竹簡の勉強会を行い、基礎的な情報の整理を行った(注1)。そして、その情報を携えて、二〇一〇年八月末日、浅野裕一、福田哲之、竹田健二とともに北京に向かったのである。日本は連日三十六度を超える記録的な猛暑が続いていたが、北京はすでに秋の気配。空港に降り立った我々は、二十五度の涼風に癒された。
九月一日、我々七名の研究会メンバーは、刁小龍氏の案内で、北京大学東門から構内に入った。校舎には赤い「歓迎」の横断幕が掲げられており、我々の歓迎にしては大げさではないかなどと話していると、これは、当日が北京大学の新学期開始日で、新入生を歓迎する横断幕であるとのことであり、合点がいった。
東門から直進して図書館を過ぎ、「歴史系」の建物に案内された我々は、北京大学出土文献研究所所長朱鳳瀚教授の出迎えを受けた。スクリーンが用意された一室に招き入れられた我々は、さっそく朱鳳瀚教授から北京大学竹簡の説明を受けた。この会合には、北京大学中国古代史研究中心の韓巍講師も同席した。パワーポイントのスライドは計三十三枚に及び、約一時間にわたって朱教授の説明を受けた。
その後、構内を移動し、「北京大学賽克勒考古与芸術博物館」に案内された。空調がきいてやや肌寒い一室に入ると、部屋いっぱいに竹簡の入ったトレーが配架されていた。窓側の机に四つのトレーがふたを外して並べられており、水に浸した竹簡が見えた。蛍光灯に照らされて、竹簡の文字は鮮明に見えた。持参した拡大鏡も使い、竹簡の形状、文字などをメンバー全員で確認した。その詳細については後述する。
竹簡の実見は約三十分ほど。その後、この博物館の展示物を概観した後、朱教授らとともに昼食をとりながら、会談に入った。以下では、朱教授のスライドによる説明、竹簡の実見、昼食時の会談の内容などを踏まえて、北京大学竹簡の概要について説明したい。
(湯浅邦弘)