- 一、戦国楚簡研究会から中国出土文献研究会へ
- 二、北京大学訪問
- 三、北京大学竹簡の概要
- 四、北京大学竹簡の意義
- 五、『蒼頡篇』について
四、北京大学竹簡の意義
我々が実見できたのは、四つのトレーに入った竹簡計三十七本であった。向かって右から、仮に第一トレー~第四トレーとし、その内容を紹介してみよう。
- 第一トレー
蒼頡篇 四本
趙正書 四本(篇題一を含む)
周訓 四本(最終簡文末に「大凡六千」の記載あり) - 第二トレー
老子 二本(内一本は「老子上経」と記した篇題簡)
妄稽 四本
魂魄賦 三本
紀年簡 一本(「孝景元年」の記載あり) - 第三トレー
医簡 五本 - 第四トレー
椹輿 二本
荊決 二本
六博 三本
節 一本
雨書 二本
これらの竹簡は、現在も整理・釈読作業が続いており、二〇一一年~一四年にかけて、上海古籍出版社から、十分冊程度で順次刊行の予定であるという。
なお、北京大学竹簡には、これとは別に秦簡もあるとのことで、これと区別するため、あえて「西漢竹書」と命名しているとのことであった。ただ「北京大学蔵西漢竹書」という名称はやや冗長なので、これからは「北大漢簡」という略称を使いたいとのことである。
また、これらが盗掘の結果、流出した竹簡なのであれば、複数墓からの出土物とは考えられないかとの質問に対しては、書風の均一性から見て、同一墓からの出土物と推測され、かつ、同一時期(おおよそ前漢武帝期)に筆写された可能性が高いとの回答であった。
では、この北大漢簡は、研究史上においてどのような意義を有すると言えるであろうか。それは、何より中国学研究全体に大きな影響を与えるという点であろう。二〇〇九年に一部の公開が始まった清華簡は、主に思想と歴史に関する出土文献を含んでいた。郭店楚簡や上博楚簡、銀雀山漢墓竹簡なども、中国思想史研究に与えた影響が最も大きかったと言える。
これに対して、北大漢簡は、思想や歴史の書に加えて、医学や数術、文学の領域に関わる多くの出土文献を含む。特に、『妄稽』や『魂魄賦』は、明らかに中国文学に関わる出土文献である。これまで、中国学の内、思想と歴史の領域については、我々の研究グループなど日本の研究者も充分に対応してきたと言えるであろう。だが、中国文学の領域はどうであろうか。
確かに、中国文学、特に古代文学史を塗り替えるような発見はこれまではなかったのである。しかし、北大漢簡には、明らかに文学作品が含まれている。中国文学の研究者に鮮烈な挑戦状が突きつけられたと言えよう。
思想・歴史・文学。広範な領域での中国学研究が、これらの出土文献によって進展していくと期待される。
注
- (1)主な情報源としたのは、『光明日報』二〇〇九年十一月六日付け記事、および『北京大学出土文献研究所工作簡報』(二〇〇九年十月)である。
- (2)清華大学竹簡については、拙稿「清華大学竹簡と先秦思想史研究」(『中国研究集刊』第五十号、二〇一〇年)参照。
(湯浅邦弘)