湖南省博物館

中国湖南省長沙学術調査報告 INDEX

『戦国楚簡研究2006』(『中国研究集刊』別冊特集号〈総四十一号〉)掲載
  平成十八年十二月 二三九―二六八頁

二、湖南省博物館

(二〇〇六年九月三日 午前九時十五分~十一時五十分訪問)

九月三日午前九時、宿泊先のホテル(華天大酒店)から専用マイクロバスで湖南省博物館に向かった。約十分で到着。

 写真1 湖南省博物館 

写真1 湖南省博物館 

写真2 湖南省博物館VIP室(中央が陳松長氏)

写真2 湖南省博物館VIP室(中央が陳松長氏)



湖南省博物館(写真1)は、長沙市の烈士公園の北側、東風路に面した東側に位置する。一九五六年の創立であるが、その後、一九七二年~七四年の馬王堆漢墓の発掘調査で一躍脚光を浴び、一九九九年に新館が建設され、現在に至っている。収蔵点数は十一万余点、国家一級文物七百余点を誇る。

到着した我々を、陳松長教授自ら玄関で出迎えていただき、そのままVIP室に招かれた(写真2)。そこでしばし歓談の後、館内を案内していただいた。まず我々が説明を受けたのは、「馬王堆漢墓陳列」室と「湖南十大考古新発現陳列」室である。

馬王堆漢墓文物

写真3 湖南省博物館の里耶簡牘展示

写真3 湖南省博物館の里耶簡牘展示

「馬王堆漢墓陳列」はさらに三室に分かれており、第一室と第二室では、馬王堆一号墓(長沙国丞相?侯利蒼の妻・辛追の墓)・二号墓(?侯利蒼の墓)・三号墓(利蒼の子の墓)の出土状況が説明されるとともに、多くの出土文物が陳列されていた。印章、装飾品、漆器、楽器、俑、遊具、兵器、帛、簡牘、種子、薬など、現世での生活を髣髴とさせる数々の貴重資料に圧倒された。馬王堆漢墓出土の文物は三千点にのぼるという。

第三室には、出土簡帛が展示されており、ここでは、竹簡『十問』十簡、『合陰陽』十簡、『天下至道談』十簡、帛書『陰陽五行甲篇』『周易』『五十二病方』『足臂十一脈灸経』『春秋事語』『養生方』『天文気象雑占』『五星占』の他、「車馬儀仗図」「太一将行図」「城域図」などの帛画、一号墓および三号墓の棺内で発見された、いわゆるT形帛画(但し、一号墓帛画は複製品)を実見した。また、地下一階には、「女尸棺椁陳列区」があり、馬王堆一号墓の巨大な棺椁(五層)と墓主辛追のミイラが陳列されていた。

陳松長教授によれば、帛書の保存については、その形態に沿っておおよそ三種に分類しているとのことであった。第一は、一枚物の帛で、そのまま単独でガラスプレートに収めているものである。右に列記した帛書のほとんどはこれに該当する。第二は、比較的長巻の帛で、巻子の形態で保存しているものである。この場合、館内での公開は、長巻の中の冒頭や中間部など、その一部ということになる。右の内の『五星占』「太一将行図」などがこれに当たる。そして第三は、冊子の形態に装訂して保存しているものである。馬王堆漢墓から出土した大量の帛は、このように形態の相違にも留意しつつ慎重に保存・公開されているのである。

里耶簡牘と走馬楼三国呉簡

次に、「湖南十大考古新発現陳列」では、特に一九八〇年以降に湖南地区で発見された十大文物が展示されていた。古いものでは旧石器時代の化石や石器などもあったが、出土文献研究の立場から何より興味深かったのは、近年発見された大量の簡牘類である。

写真4 湖南省博物館の走馬楼三国呉簡展示</

写真4 湖南省博物館の走馬楼三国呉簡展示</

その一つは、二〇〇二年に龍山県里耶鎮の秦漢城址から出土した簡牘(里耶秦簡)である。この城址からは青銅器、鉄器、玉器などの文物とともに、一号古井から三万余枚の簡牘が発見された。総字数は数十万字に達するという。早くも、「二十一世紀最大の発見」の呼び声も高い貴重な資料群である。里耶簡牘は、表裏両面に文字が記されているものもあるため、展示ケースの中に平に置くだけではなく、六枚の木牘(長さ二二.五~三〇センチ、幅三.五~四センチ)が衝立状のガラスケース内に立てて、両面が閲覧できるようにされていた(写真3)。展示の工夫として評価できる点である。

今ひとつは、一九九六年に長沙市中心部五一広場近くの走馬街・平和堂商厦(デパート)建設地で発見された走馬楼三国呉簡である。館内には、走馬楼J22号古井出土の「大木簡(長さ四九.二センチ、幅三センチ)」
六枚、「竹簡(長さ二七.一センチ、幅二.一センチ)」八枚、「木牘」「木刺」「簽牌」計八枚などが展示されていた(写真4)。走馬楼三国呉簡の総数は十余万枚にのぼる。発掘現場を記念して、平和堂の五階の一角が展示室となっていることについては、先述した通りである。

なお、里耶簡牘については「湖南省文物考古研究所提供」、走馬楼三国呉簡については「長沙市文物考古研究所提供」と説明パネルに記されていた。我々は、この日の午後に長沙市文物考古研究所を、また、翌日の午前中には湖南省文物考古研究所を訪問し、これら簡牘の実物に触れる機会を得ることとなる。その詳細については、次節以降において後述する。
博物館の訪問は約二時間半。「馬王堆漢墓陳列」と「湖南十大考古新発現陳列」で我々の所期の目的は達成されたが、博物館には、この他、「青銅器陳列」「湖南名?陶瓷陳列」「館蔵明清絵画陳列」室などもあった。

(湯浅邦弘)

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