清華簡の実見

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『清華大学竹簡と先秦思想史研究』

湯浅邦弘
中国研究集刊 玉号(総五十号)平成二十二年一月 二八〇―二八八頁

清華簡の実見

まず清華簡が収蔵されている部屋に招かれた。警備員が配置されている。空調がきいているためか、やや肌寒い。センターの劉国忠、趙桂芳、沈建華研究員の立ち会いの下、ふたの外された四つのトレーをのぞき込む。部屋全体で、トレーは七十。我々が実見を許されたのは第六十六~六十九番の四つのトレーであった。トレーはそれぞれ透明のガラスケースで覆われている。竹簡収蔵の様子は次の通りである。

  • 第六十六番トレー 竹簡番号二二七二~二二九一 竹簡枚数二十
  • 第六十七番トレー 竹簡番号二二九二~二三一八 竹簡枚数二十七
  • 第六十八番トレー 竹簡番号二三一九~二三三五 竹簡枚数十七
  • 第六十九番トレー 竹簡番号二三三六~二三六〇 竹簡枚数二十五

(但し、第六十九番トレーは、保存状態を示すため、竹簡背面を展示している。そのため文字は記されていない、いわゆる白簡の状態であった。)

清華簡の実見

清華簡の実見の様子1

竹簡は、一枚ずつ細長いガラス板に乗せられ、白い紐で固定されて、トレーの中に整然と配置されていた。全体は少し黒っぽいが文字は鮮明に見える。字体は、郭店楚簡や上博楚簡で見られた楚系文字に類似している。簡長は、短い残簡を除けば、おおむね三十cm台~四十cm台。竹簡の両端は平斉で、円形や梯形のものはない。比較的見栄えのよい竹簡が並べられていたのかどうか分からないが、張家山漢簡のように湾曲した竹簡は見あたらず、保存状態はよいとの印象を受けた。

トレー内の竹簡は、一種類の文献ではなかった。たとえば、第六十六番トレーには「一」(陽)と「八」(陰)で構成された卦画が見えることから、『周易』関係の文献であると推測された。また、第六十八番トレーには、他
の竹簡とは異なる幅広の竹簡も二本収められていた。他の竹簡の幅が一cmに満たないのに対して、これら二本は一.五cm程度もある。ここには、一本の竹簡に文字が二行にわたって記されており、しかも、文字と文字の間に赤い横線が引かれている。明らかに図表形式の竹簡である。さらに、年代や国名が記された史書らしき文献も見られた。

清華簡の実見様子2

清華簡の実見様子2

こうして竹簡を凝視し続けていた我々に、劉国忠氏がささやいたのが、冒頭のことばである。「世界初」という事実に、身の震えるような思いがこみ上げてきた。

人はあまりに熱中すると時間の感覚を失う。我々も、時を忘れて竹簡を眺め続けた。わずか数分の出来事のようにも思えたが、時計を見るとすでに三十分が経過していた。

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