中国山東省学術調査報告 INDEX
中国研究集刊 麗号(総四十八号) 平成二十一年六月 一七二 ~ 一八九頁
五、墨子紀念館
武氏墓群石刻博物館を見学した後、滕州へ移動。墨子紀念館へ向かった。この紀念館は、一九九三年に学術研究・図書資料の収蔵・科学技術教育のために建設された、墨子の博物館である。「序庁」「綜合庁」「科技庁」「軍事庁」「聖蹟庁」の五つの展示室よりなる。
まず、「序庁」にて我々を出迎えた墨子像は、「労働者」であることを強調した凛々しい姿であった。ここでは、中国の偉人たちが墨子をいかに評しているかについて知ることができる。「綜合庁」には、墨子研究の成果や、国際学会の模様が掲示され、中央には「墨子文化城」と称した模型を設置している。「科技庁」では、光学・力学・数学・幾何学・声音伝播学等に関する展示物が数多くあり、これらの科学技術が墨子に基づくとされている。墨子の軍事思想や防御措置については「軍事庁」にて紹介され、工具や武器等の模型も置かれている。「聖蹟庁」には、孔子の『聖蹟図』に模して、墨子の生涯を色鮮やかに描いた「墨子聖蹟図」が展示されている。
この紀念館において、墨子は「百科全書式学者」「科聖」「偉大的軍事家」等と称され、高い評価を受けている。中でも、「科聖」と称して、科学技術の源流が墨子にあったとする点は注目に値する。これは近代にヨーロッパの科学が中国に流入してきたことと無関係ではないであろう。中国において墨子は、現代にも通じる思想家の一人として再評価されているのである。
(草野友子)